「英語って、やっぱり早く始めた方がいいですか?」
子どもの教育について考え始めると、一度は気になるテーマではないでしょうか。
0歳からの英語教材。
幼児英会話。
英語の歌や動画。
そして、
「英語耳は○歳まで」
「小さいうちに始めないと遅い」
といった言葉。
こうした情報を見ると、
「今すぐ始めないと、手遅れになるのでは?」
と不安になるかもしれません。
では、本当に英語は早く始めれば始めるほどいいのでしょうか。
私は、
英語の「音」に触れるという意味では、幼い時期から始めることにはメリットがある。
と考えています。
一方で、
「早く始めたから安心」でも、「幼児期を逃したからもう遅い」でもありません。
大切なのは、
何歳から始めるかだけでなく、始めた英語にどう触れ続けていくか。
今回は、子どもの言語習得について研究で分かっていることをもとに、幼児期の英語との付き合い方を考えてみます。
英語は「早く始めるほど有利」なの?
まず結論から言うと、
何を「有利」と考えるかによって答えは変わります。
英語力と一言で言っても、
音を聞き分ける力。
発音する力。
ことばを知る力。
会話を理解する力。
話す力。
読む力。
書く力。
など、いくつもの力があります。
その中でも、幼い時期から英語に触れる意味を考えるうえで注目したいのが、「音」です。
乳児は、生まれたときから日本語の音だけを聞き分けているわけではありません。
乳児の音声知覚を調べた研究では、生後6〜12か月頃にかけて、周囲で使われている言語の音への知覚が高まる一方、普段触れていない言語の音の違いを聞き分ける能力が低下していくことが報告されています。
つまり、赤ちゃんの耳は成長の中で、
「普段聞いている言語の音」に少しずつ最適化されていく
と考えられています。
だからこそ私は、英語の音に親しむという意味では、幼い頃から英語に触れることには意味があると考えています。
ただし――。
ここからが大切です。
「英語耳は○歳まで」は本当?
「英語耳は3歳まで」
「6歳を過ぎると遅い」
「9歳までが臨界期」
こうした表現を見かけることがあります。
でも、研究はそこまで単純ではありません。
確かに、言語習得には年齢が関係します。
第二言語の最終的な到達度についても、習得開始年齢との関連が報告されています。
一方で、
「○歳を過ぎた瞬間、英語を習得できなくなる」
という境界線が確認されているわけではありません。
たとえば約67万人規模のデータを分析したHartshorneらの研究では、文法学習能力は幼児期の早い段階から急激に失われるのではなく、比較的長く高い状態が続くという結果が示されています。ネイティブに近い習熟度へ到達するには早い開始が有利だったものの、「幼児期を逃したら終わり」という単純な話ではありません。
そして、先ほどの乳児研究が扱っているのは主に音声の知覚です。
文法、語彙、読み書きなどまで全部まとめて、
「○歳までに英語を始めなければ手遅れ」
とするのは適切ではありません。

早く始めること以上に「触れ続けること」を大切にしたい
ここが、この記事で私が一番伝えたいことです。
幼児期に英語をたくさん学んだ。
英会話教室にも通った。
英語教材もたくさん使った。
だから、
「これで英語の土台はできた」
と考えたくなるかもしれません。
でも、言語は一度身につければ、そのままずっと同じ状態で保存されるものではありません。
子どものバイリンガル発達を扱った研究では、ある言語に多く触れている子ほど、その言語で多くの語彙や文法を獲得する傾向が示されています。また、その言語への相対的な接触量は、語彙だけでなくリアルタイムの言語処理能力とも関連しています。
つまり、
「何歳から始めたか」だけでなく、「その後どれくらい英語に触れてきたか」も重要
なのです。
たとえば、
Aさん
0歳から英語を始める
↓
幼児期にたくさん英語を学ぶ
↓
その後、ほとんど英語に触れなくなる
一方、
Bさん
5歳から英語を始める
↓
英語の歌を聞く
↓
絵本や動画を楽しむ
↓
少しずつ英語に触れ続ける
↓
小学生になっても続く
この二人を、
「Aさんの方が0歳から始めたから有利」
と、開始年齢だけで判断することはできません。
だから私は、
「何歳から始める?」と同じくらい、「どうすれば続けられる?」を考えてほしい。
と思っています。
英語を続けるために、「英語を好きになる」を大切にする
では、どうすれば英語に触れ続けられるのでしょうか。
幼児期だからこそ、私は、
「英語=勉強」にしすぎないこと
を大切にしたいと思っています。
たとえば、
「Appleは?」
「Dogは?」
「昨日覚えたでしょ?」
と、英語に触れるたびに正解を求められたらどうでしょう。
最初は楽しんでいた英語が、
「答えなければいけないもの」
になってしまうかもしれません。
英語を覚えたかどうかを確認することより、
英語の歌を聞いて笑う。
英語の絵本を楽しむ。
知っていることばが聞こえて嬉しくなる。
そんな経験を積み重ねたい。
なぜなら、
英語が好きなら、自分から英語に触れようとする可能性が高くなるからです。
そして、自分から触れるようになれば、英語との付き合いも長くなります。
幼児英語では、
「どれだけ覚えたか」だけでなく、「また英語に触れたいと思えるか」
も大切にしたいと私は考えています。
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幼児期の英語で大切にしたい4つのこと
① まずは「英語の音」を楽しむ
幼い子どもなら、最初から単語帳や文法問題をする必要はありません。
歌を聞く。
英語絵本を読む。
手遊びをする。
簡単なやり取りを楽しむ。
幼児期だからこそ、
英語を「覚える対象」にする前に、「聞いて楽しむもの」にする。
先ほど紹介した乳児研究からも、幼い時期の音声知覚は周囲の言語経験によって変化することが示されています。
ただし、ここでも一つ注意があります。
「英語を流しておけばいい」と単純には言えません。
9か月児を対象にした有名な実験では、中国語話者との対面での社会的なやり取りを経験した乳児は中国語の音声を学習しましたが、テレビ映像や音声のみの条件では同じ学習効果が確認されませんでした。
少なくとも乳児期については、
「とにかく長時間、英語音声を流す」だけが最善とは言えない
ということです。
親子で歌う。
絵本を見る。
人とやり取りする。
そんな
経験も大切にしたいところです。
②「英語=テスト」にしない
子どもが、
「Apple!」
と言ったら、
「そうだね、りんごだね」
でいい。
毎回、
「これは英語で何?」
と確認する必要はありません。
もちろん、クイズが好きな子なら遊びとしてやってもいい。
大切なのは、
親が覚えさせたいことより、子どもが楽しめているかを見ること。
です。
英語に触れるたびに評価されるより、
「分かった!」
「聞いたことある!」
という経験を積み重ねていく。
私は、幼児期にはこちらを大切にしたいと思っています。
③ 子どもの「好き」に英語を乗せる
ここは、前の記事でも大切にした考え方です。
英語そのものを好きにさせようと頑張らなくてもいい。
すでに好きなものと、英語をつなげる。
恐竜が好きなら、
英語の恐竜絵本。
電車が好きなら、
英語の乗り物動画。
歌が好きなら、
英語の歌。
物語が好きなら、
知っているお話の英語版。
つまり、
「英語を好きにさせる」のではなく、「好きなもの」に英語を乗せてみる。
子どもにとって、
「英語の勉強をしている」
ではなく、
「好きな恐竜を見ていたら英語だった」
くらいでもいい。
英語に触れ続けることを考えるなら、この入口はとても大切だと思います。

④ 親が英語の先生にならなくてもいい
「私、英語が苦手だから……」
「発音が悪いから、読み聞かせない方がいい?」
そんな心配もあるかもしれません。
でも、家庭で親が完璧な英語教師になる必要はありません。
英語絵本の音源を使う。
歌を一緒に聞く。
良質な動画を使う。
必要なら英会話など外部の力を借りる。
親が担うのは、
完璧な英語を教えることではなく、英語と楽しく出会える環境を用意すること。
それでも十分だと私は考えています。
日本語より英語を優先した方がいい?
早期英語について考えていると、
「家でもできるだけ英語を使った方がいいのかな?」
と考えることがあるかもしれません。
でも、英語を増やすために、親子が最も自然に深く話せる言語まで無理に減らす必要はありません。
二言語環境で育つ子どもの研究を見ると、それぞれの言語でどれくらいのインプットを受けるかが、その言語の発達と関連しています。一方で、二言語に触れること自体が「子どもを混乱させる」という考えは支持されていません。
私は、
日本語か、英語か。
と考えなくてもいいと思っています。
日本語で、
「今日何が楽しかった?」
「どうしてそう思ったの?」
「これ、不思議だね」
と親子でたくさん話す。
絵本を読む。
ことばを交わす。
その豊かなことばの世界を大切にしながら、
そこに英語というもう一つの世界を少しずつ広げていく。
そんな考え方でいいのではないでしょうか。
じゃあ、結局何歳から英語を始めればいい?
ここまで読むと、
「結局、何歳からなの?」
と思うかもしれません。
私は、
家庭で無理なく続けられるのであれば、幼児期から英語の音に触れ始めるのは十分アリ
だと考えています。
乳児期から、周囲の言語経験によって音声知覚が変化していくことは研究でも確認されています。
だから、
英語の歌を聞く。
親子で英語絵本を楽しむ。
英語で人とやり取りする。
そんな経験を幼い頃から始めてもいい。
でも、
「もう5歳だから遅い」
「小学生だから手遅れ」
と焦る必要もありません。
第二言語習得に年齢の影響はありますが、それは「幼児期を逃したら学べない」という意味ではありません。
だから私は、
早く始めてもいい。でも、遅すぎると焦らなくてもいい。
と考えています。
「早く始める」より、その先まで考える
英語を始めるとき、
私なら、
「何歳から始めよう?」
だけではなく、
「この子が5年後も英語に触れているためには、どうすればいいだろう?」
まで考えます。
0歳で始めてもいい。
3歳でもいい。
5歳でもいい。
大切なのは、
英語との出会いを一度きりにしないこと。
そして、そのために、
英語を嫌いにしないこと。
むしろ、
「楽しい」
「分かった!」
「もっと聞きたい」
と思える経験を増やしていく。

まとめ|「何歳から?」より「どう続ける?」
英語教育について考えると、
「何歳から始めればいい?」
がどうしても気になります。
そして、英語の音に触れるという意味では、幼い時期から始めることにはメリットがあります。
だから、
早く始めるのはアリ。
でも、それだけで終わりではありません。
幼児期に英語をたくさん学んだから、その後ずっと大丈夫。
というものでもありません。
そして、
「幼児期に始められなかったから、もう遅い」
でもありません。
私が大切にしたいのは、
「何歳から?」だけでなく、「どう続ける?」
です。
英語の歌を一緒に聞く。
絵本を楽しむ。
好きな恐竜を英語でも見てみる。
英語で誰かと話してみる。
そして、
「また聞きたい」
「もっと分かりたい」
という気持ちを育てる。
英語を好きにさせようとするより、子どもの「好き」に英語を乗せてみる。
そうすれば、英語は「やらされる勉強」ではなく、自分から触れたいものになっていくかもしれません。
早く始めてもいい。
でも、遅すぎると焦らなくてもいい。
私は、
始める年齢を競うより、親子で無理なく続けられる英語との関係をつくること
を大切にしたいと考えています。
参考資料
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・Kuhl, P. K., Tsao, F.-M., & Liu, H.-M.(2003)“Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 100(15), 9096–9101.
・Hartshorne, J. K., Tenenbaum, J. B., & Pinker, S.(2018)“A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers.” Cognition, 177, 263–277.
・Hurtado, N., Grüter, T., Marchman, V. A., & Fernald, A.(2014)“Relative language exposure, processing efficiency and vocabulary in Spanish–English bilingual toddlers.” Bilingualism: Language and Cognition, 17(1), 189–202.


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