「もっと褒めて、自己肯定感を高めてあげたい」
子育てをしていると、一度は考えたことがあるかもしれません。
「すごいね!」
「あなたなら何でもできるよ!」
「あなたが一番!」
もちろん、子どもを認めたり、愛情を伝えたりすることは大切です。
でも、何でも肯定して、自信を持たせ続けること=自己肯定感を育てることなのでしょうか。
私は少し違うと考えています。
目指したいのは「私は何でもできる」ではなく、 「できないことがあっても、私は私で大丈夫」。
今回は、子どもの自己肯定感について研究で分かっていることと、親が家庭でできる関わりを考えてみます。
「自己肯定感が高い=自信満々」ではない
そもそも、一般に使われる「自己肯定感」という言葉には、かなり幅があります。
心理学では近い概念としてself-esteem(自尊感情)などが研究されています。
大まかにいえば、
「自分自身をどの程度価値ある存在だと感じているか」
という自己評価に関わる概念です。
ここで大切なのが、
「何でもできると思っていること」とは違う
ということ。
算数が苦手。
走るのが遅い。
人前で話すのが苦手。
そんな自分の弱い部分を理解していても、
「だから自分には価値がない」
とは限りません。
教育現場で子どもたちを見ていても、自己肯定感が安定しているように感じる子ほど、
「これは苦手」
「これは○○ちゃんの方が上手」
と意外と冷静に自分を見ていることがあります。
でも、
「苦手なことがある=自分はダメ」
にはならない。
私は、まずこの違いを大切にしたいと思っています。
① 「全部すごい!」と全肯定しなくていい
自己肯定感を育てたいと思うと、
「すごい!」
「天才!」
「全部できてるよ!」
と、とにかく肯定したくなることがあります。
でも、自己評価を高くすれば高くするほど良いわけではありません。
Brummelmanらが7〜12歳の子ども565人とその親を追跡した研究では、親の過大評価(parental overvaluation)は、その後の子どものナルシシズムを予測しました。
一方、子どものself-esteemを予測したのは、親から感じる温かさ(parental warmth)でした。
つまり、
「あなたは他の子より特別にすごい」
と、
「あなたを大切に思っている」
は違うということです。
自己肯定感のために、子どもの能力まで大きく見せる必要はありません。
② 苦手なことは「苦手」でいい
子どもが、
「ぼく、走るの遅い」
と言ったとします。
ここで、
「そんなことないよ!速いよ!」
と即座に否定したくなるかもしれません。
でも、本当に本人が苦手なのであれば、
「そうだね。走るのはあんまり得意じゃないかもね」
と認めてもいい。
そのうえで、
「でも絵を描くのは好きだよね」
でもいいし、
「速くなりたいなら一緒に練習してみる?」
でもいい。
重要なのは、
苦手を認めることと、本人を否定することを分けること。
「走るのが苦手」
と、
「だから僕はダメ」
の間には大きな違いがあります。
親がすべての弱点を消してあげなくてもいい。
むしろ、
苦手な自分も含めて、自分を現実的に理解できること
を大切にしたいと思います。

③ 「できた・できない」と「あなたの価値」を分ける
テストで悪い点を取った。
試合に負けた。
発表がうまくできなかった。
そんなとき、
子ども自身が、
「僕ってダメだ」
と言うことがあります。
ここで親が伝えたいのは、
「失敗してないよ!」ではありません。
失敗したなら、失敗したでいい。
「今回はうまくいかなかったね」
と認めたうえで、
「でも、それであなた全部がダメになるわけじゃないよ」
と切り分ける。
失敗したことと、
その子自身の価値は別です。
私は、成功するたびに自己評価を上げることより、
失敗したときに自分全体まで否定しないこと
の方を大切にしたいと思っています。
④ 「すごいね!」より、その子をちゃんと見る
これは以前の記事でも紹介しました。
「100点!すごい!」
「全部できた!天才!」
という褒め方が悪いわけではありません。
嬉しいときには一緒に喜んでいい。
ただ、
「毎朝練習してたもんね」
「前はここが難しかったけど、できるようになったね」
と伝えられると、少し意味が変わります。
私は、
褒めることは結果を見ればできる。認めることは、その子を見ていないとできない。
と考えています。
「自己肯定感を上げるために褒めなきゃ」
と考えるより、
今日、この子のどんな姿を見つけられたかな?
くらいの方がいい。
褒め方・認め方については、こちらの記事で詳しく紹介しています。

⑤ 「あなたならできる!」と言いすぎなくていい
子どもが難しいことに挑戦するとき、
「絶対できるよ!」
と励ますことがあります。
もちろん、背中を押す言葉になることもあります。
でも、
できないことだってあります。
そんなとき、
「絶対できるって言われたのに、できなかった」
となれば、励ましが逆に重くなることもあります。
だから、
「できるよ!」ではなく、
「やってみたいなら応援するよ」
「難しかったら一緒に考えよう」
「失敗しても大丈夫だよ」
でもいい。
結果を保証するのではなく、
挑戦する自分を支えてもらえる。
そんな安心感をつくることを大切にしたいと思います。
⑥ 比べるなら「他の子」より「前のその子」
「あの子はもう読めるよ」
「○○ちゃんはできてるよ」
こうした比較は、親としてもできるだけ避けたいところです。
一方で、
「前のその子」と比べる
のは使えます。
「前はここ難しかったよね」
「去年よりこんなにできるようになったね」
「前より自分から話せるようになったね」
自分の変化に気づくことができます。
子どもの自己評価には、学業、運動、友人関係など、さまざまな領域があります。
すべてで一番になる必要はありません。
得意なところもある。苦手なところもある。そして成長しているところもある。
そんなふうに自分を立体的に見られることの方が大切だと思います。
⑦ 「あなたが大切」は、能力と関係なく伝える
最後は一番シンプルです。
100点だったから大切。
言うことを聞いたから大切。
上手にできたから大切。
ではありません。
研究でも、親から感じる温かさと子どものself-esteemとの関連が報告されています。
だから、
抱きしめる。
一緒に笑う。
話を聞く。
「大好きだよ」と伝える。
子どもの興味に付き合う。
そんな日常の関わりを、
「自己肯定感を高めるトレーニング」
にする必要はないと思います。
むしろ、
何かができたからではなく、あなた自身を大切に思っている。
それが日常の中で伝わること。
親ができることとして、私はここを一番大切にしたいと思います。
「自己肯定感を育てなきゃ」と焦らなくていい
ここまで読むと、
「ちゃんと自己肯定感を育てられているかな?」
と、逆に心配になるかもしれません。
でも、そこまで親が背負う必要はありません。
子どもの自己評価は、親との関係だけで決まるものではありません。
友達。
学校や園。
成功体験。
失敗体験。
本人の気質。
さまざまな要因が関係します。
研究でも、親の関わりとself-esteemとの関連は報告されていますが、
「この声かけをすれば自己肯定感が高くなる」
というほど単純ではありません。
だから、
「今日も自己肯定感を高める声かけをしなきゃ!」
なんて考えなくて大丈夫。
それより、
子どもの話を聞く。
できたことも、できなかったことも見る。
それでも変わらず大切にする。
その積み重ねを大事にしたいと思います。
こんなとき、どう声をかける?
| 子どもの状況・言葉 | こんな返し方も |
| 「僕、走るの遅い」 | 「走るのはちょっと苦手なんだね、得意な〇〇で頑張ろっか」 |
| テストで失敗した | 「今回は難しかったね。どうだった?」 |
| 「私ってダメな子」 | 「〇〇はうまくいかなかったけど、あなたがダメなわけじゃないよ」 |
| 難しいことに挑戦する | 「やってみたいなら、応援するよ!」 |
| 苦手なことができた! | 「前よりできるようになったね!」 |
| 何かに成功した | 「やったね!ずっと練習してたもんね!」 |
毎回こんなに丁寧に返す必要はありません。
「やったー!」
「悔しかったね」
「大好きだよ」
そんな普通の親子の会話で十分です。
大切なのは、
子どもの自己評価を無理に上げることではなく、その子をそのまま見ること。
まとめ|「何でもできる私」じゃなくていい
自己肯定感の高い子に育ってほしい。
そう思うこと自体は、とても自然です。
でも、そのために、
「あなたは天才!」
「何でもできる!」
「あなたが一番!」
と伝え続ける必要はありません。
苦手なことがあっていい。
失敗してもいい。
自信をなくす日だってある。
それでも、
「できないことがある自分も、自分である」
と思える。
そして、
「できないことがあっても、私は私で大丈夫」
と思える。
私は、そんな自己理解の方を大切にしたいと思っています。

自己肯定感を無理に「高くする」のではなく、子どもが自分自身を丸ごと否定しなくて済む土台をつくる。
そのために親ができるのは、
持ち上げることより、
見て、聞いて、認めて、大切にすること。
それくらいでいいのではないでしょうか。
参考資料
- Brummelman, E., Thomaes, S., Nelemans, S. A., Orobio de Castro, B., Overbeek, G., & Bushman, B. J. (2015). “Origins of narcissism in children.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(12), 3659–3662.
7〜12歳の子どもと親を追跡し、親による過大評価、親の温かさ、子どものナルシシズム・self-esteemの関係を検討した研究。 - Orth, U. (2018). “The family environment in early childhood has a long-term effect on self-esteem: A longitudinal study from birth to age 27 years.” Journal of Personality and Social Psychology, 114(4), 637–655.
幼少期の家庭環境と、その後のself-esteemの発達との関連を長期的に検討した研究。 - Self-concept / self-esteemに関する発達研究・メタ分析
子どもの自己評価には、全般的な自己価値だけでなく、学業・運動・社会関係など領域ごとの自己評価があるという整理に参照しました。
※日本で一般的に使われる「自己肯定感」と、心理学研究におけるself-esteem、self-concept。self-efficacyなどは完全に同じ概念ではありません。また、特定の親の声かけによって子どもの自己肯定感が必ず高まるという意味ではありません。本記事では関連する研究知見と、教育現場で子ども・保護者に関わってきた経験をもとに、家庭で考えやすい形に整理しています。

