「子どもの語彙力を伸ばしたいけど、何をしたらいいんだろう?」
そう考えると、
「たくさん話しかけた方がいいのかな」
「ものの名前をたくさん教えた方がいい?」
と思うかもしれません。
もちろん、子どもがたくさんの言葉に触れることは大切です。
でも私は、それ以上に大切にしたいのが、
子どもが発した言葉を、大人が少し広げて返してあげること。
だと思っています。
例えば散歩中、子どもが、
「くるま!」
と言ったとします。
「そうだね。車だね」
でもいい。
そこから、
「赤い車だね」
「大きな車だね」
「すごく速そうだね」
と少し言葉を足すこともできます。
さらに、
「ママ、あの赤い車好きだな」
「○○ちゃんは赤と青、どっちが好き?」
までいけば、一つの「車」から会話がどんどん広がっていきます。
今回は、子どもに言葉を「覚えさせる」のではなく、日々の親子の会話の中で語彙を育てていく方法を考えてみます。
語彙力は「たくさん話しかける」だけで考えなくていい
子どもの言葉を増やしたい。
そう思うと、
「とにかくたくさん話しかけよう!」
と考えるかもしれません。
もちろん、言葉に触れる機会は大切です。
ただ、近年の研究を見ると、単純な「大人が話した言葉の量」だけではなく、親子の会話の往復にも注目したくなります。
4〜6歳の子ども36人を対象に家庭での言語環境と脳活動を調べた研究では、大人が話した言葉の量だけではなく、大人と子どもの会話のターン数が、子どもの言語能力や言語に関わる脳領域の活動と関連していました。
さらに別の介入研究では、親子の会話のターンが増えた変化と、子どもの言語・実行機能の変化との関連も報告されています。
もちろん、
「会話を○往復すれば語彙が○個増える」
という単純な話ではありません。
それでも私は、
「今日は何語話しかけた?」ではなく、「今日はどんなやり取りをした?」
と考える方が、家庭では取り入れやすいと思っています。
親が一方的に話すのではなく、
親が話す。
子どもが返す。
それを親が受け取る。
また子どもが話す。
言葉は、そんなやり取りの中でも育っていきます。

今日からできる「語彙を育てる声かけ」7選
① 子どもの言葉に「少しだけ」足して返す
まず、私が一番おすすめしたい方法です。
子どもが、
「わんわん!」
と言ったら、
「そうだね」
だけで終わらず、
「白いワンちゃんだね」
と少しだけ足してみる。
子「ブーブー!」
親「大きなトラックだね」
子「お花!」
親「黄色いお花だね。きれいだね」
こんな感じです。
言語発達の研究では、子どもの発話を受けて、意味を保ちながらより完全な形で返すことをexpansion(拡張)と呼びます。
例えば、
子「ワンワン走る」
に対して、
親「ワンワンが走ってるね」
と返すようなイメージです。
言葉の発達がゆっくりだった幼児を追跡した研究では、養育者によるこうしたexpansionが、その後の言語発達の改善を予測したことが報告されています。
また、言語発達に課題のある幼児と養育者を対象にした介入研究でも、子どもとのターンを合わせることやexpansionなどを増やす支援によって、子どもの語彙にも改善がみられています。
ただし、家庭で専門用語を覚える必要はありません。
大切なのは、
子どもの言葉を否定せず、ほんの少し豊かにして返す。
それくらいで十分だと思います。
② 子どもが見ているものを「実況」する
特別な教材がなくても、日常生活には言葉があふれています。
例えば料理中なら、
「にんじん切ってるよ」
「トントンって音がするね」
「お湯がグツグツしてきた」
散歩なら、
「風が強いね」
「葉っぱが揺れてる」
「大きなバスが止まったね」
と、今起きていることに言葉を添えます。
ここで大切にしたいのが、
子どもが何を見ているか。
乳幼児の言語発達では、親と子が同じものに注意を向ける「共同注意(joint attention)」が研究されてきました。
2,188人の子どもを追った研究でも、共同注意や親子での読書と、その後の語彙発達との関係が示されています。
ただ、共同注意と語彙の関係は単純ではありません。2025年の縦断研究では、共同注意そのものから後の語彙への単純な直接効果は確認されなかった一方、子どもの共同注意への反応と、親の支援的な関わりとの組み合わせが受容語彙と関連しました。
だから、
「たくさん実況しなきゃ」ではありません。
子どもが、
「あ!」
と何かを見つけた。
そこを一緒に見る。
そして、
「ほんとだ。大きなバスだね」
と、その体験に言葉を添える。
私は、そんな自然なやり取りを大切にしたいと思っています。
③ 「これ何?」ばかりにしない
子どもが言葉を覚え始めると、ついやってしまうのが、
「これ何?」
「これは?」
「何色?」
「何匹いる?」
という質問。
もちろん、クイズが好きな子なら遊びとしてやっていいと思います。
ただ、毎回こうなると、
会話ではなく、一問一答のテスト
になってしまいます。
私自身、教育熱心な家庭を見てきた中で、
「これ何?」
「赤!」
「違うでしょ!こっちでしょ!」
というやり取りを見て、
熱心だからこそ、少しもったいないな
と感じることがありました。
正解を知っているか確認することが中心になると、子どもが自分から言葉を使って伝える余白が小さくなります。
例えば犬を見つけたら、
「これ何?」
ではなく、
「かわいいワンちゃんだね」
と言ってみる。
子どもが、
「大きい!」
と言ったら、
「ほんとだ。○○ちゃんより大きいかもしれないね」
と返す。
そして、
「でも、優しそうだね」
とさらに広げてもいい。
答えを確認する会話から、一緒に気づきを楽しむ会話へ
少し意識するだけで、同じものを見ていても使う言葉はかなり変わります。
④ 親自身の「好き」「怖い」「面白い」も言葉にする
これは、私が特に大切にしたい声かけです。
例えば車を見て、
「赤い車だね」
だけではなく、
「ママ、あの赤い車好きだなあ」
と言ってみる。
「ママは赤い車より、こっちの青い車の方が好きかな」
「この花いい匂い。お母さん、この匂い好き」
「この恐竜かっこいい!お父さんこれ好きだな」
親自身の感情や興味を、会話に乗せます。
幼児は言葉だけを切り離して学習しているわけではなく、大人の視線や表情、ジェスチャーなどの社会的な手がかりも使いながら、周囲の世界と言葉を結びつけていきます。
だから私は、
「これは○○だよ」と教えるだけでなく、大人自身も一緒に面白がる。
ことも大切だと思っています。
実際、これまで見てきた家庭の中に、読み聞かせをしながら、
「ママ、このお話好きだな〜」
「ママ、このオオカミ怖い……」
と、親自身の感情をよく言葉にしている家庭がありました。
その子は、とても本が好きな子に育っていました。
もちろん、
「親が感想を言ったから本好きになった」
と因果関係を言うことはできません。
ただ、その家庭では読み聞かせが、
「子どもに本を読んであげる時間」ではなく、「親子で物語を一緒に味わう時間」
になっていたのが印象的でした。
「ママはこう思ったよ」
と伝えたら、
「○○ちゃんは?」
と返してみる。
そこからまた、新しい言葉が生まれるかもしれません。

⑤ 子どもが話すまで、少し待つ
大人は、子どもより圧倒的に言葉が上手です。
だから、
「今日、保育園で何した?」
「えっと……」
「公園行った?」
「うん」
「滑り台した?」
「うん」
「楽しかった?」
「うん」
となりがちです。
悪いわけではありません。
でもこれでは、ほとんど大人が会話を作っています。
子どもが、
「えっと……」
と言っているなら、
少し待ってみる。
今、自分の頭の中から言葉を探しているのかもしれません。
そして出てきた言葉が、
「こうえん……すべりだい」
だったら、
「公園で滑り台したんだね!」
と返せばいい。
ここでも、
待つ → 子どもが話す → 少し広げて返す
という会話ができます。
子どもが言葉を使うためには、子ども自身が話す番も必要です。
親が全部先回りせず、
会話の中にも少し余白を作る。
私はそれを大切にしたいと思っています。
⑥ 絵本は「読んで終わり」にしない
読み聞かせは、子どもが日常生活だけでは出会いにくい言葉に触れられる時間でもあります。
共有読書と語彙学習について38研究・2,455人をまとめたメタ分析でも、子どもが絵本から新しい言葉を学ぶことが確認され、読み方によって学習効果が変わる可能性も示されています。
さらに、3〜4歳児を対象とした実験では、同じ未知語に触れていても、大人が子どもの反応を受けながら質問したり応答したりする読み方の方が、新しい単語の学習成績が高くなりました。
ただし、「対話的に読めば必ず語彙が伸びる」と単純化するのも避けたいところです。2歳半〜3歳の150人を対象にした別のランダム化比較試験では、対話的な読み方そのものは、通常の積極的な共有読書を上回る言語能力への効果を示しませんでした。
だから私は、
読み聞かせを勉強にしすぎないこと
も大切だと思っています。
「このあとどうなる?」
「この動物は何?」
と毎ページ質問する必要はありません。
親自身も、
「このページ好きだな」
「このオオカミ怖いね」
と物語を楽しむ。
そして本を閉じたあとも、
絵本で「どんぐり」を知った。
↓
公園で本物のどんぐりを見つける。
↓
「あ!この前の絵本に出てきたどんぐりだ!」
とつなげる。
言葉 → 絵本 → 実物 → 体験 → もう一度言葉
とつながれば、絵本の中にあった言葉が、子どもの実際の世界へ出てきます。
⑦ 「なんで?」には、一緒に考える
子どもから、
「なんで空は青いの?」
「なんで魚は水の中にいるの?」
と聞かれる。
全部説明しなきゃ。
と思わなくて大丈夫です。
むしろ、
「なんでだろうね?」
でもいい。
「ママも分からないな。調べてみようか」
と図鑑を開く。
実際に外へ見に行く。
すると、
「空」
から、
「雲」
「光」
「雨」
「夕焼け」
へ興味が広がることもあります。
質問に正しく答えることだけではなく、
一つの興味から次の言葉や経験へつなげていく。
以前にも紹介しましたが、
「知らない → 教えてもらう」だけではなく、
「知らない → 一緒に確かめる」へ。
という経験を、私はたくさん作ってあげたいと思っています。
語彙が豊かな子の家庭に「散歩」が多かった
これは研究結果ではなく、私自身がこれまで子どもたちを見てきて感じていることです。
「この子、いろいろな言葉を知っているな」
と感じる子の家庭を振り返ると、親子で一緒に歩いている家庭が多かったように思います。
もちろん、
「散歩をすれば語彙力が伸びる」
という意味ではありません。
でも、車で目的地まで移動すると通り過ぎてしまうものも、歩いていると、
「あ、お花!」
「工事してる!」
「犬がいる!」
「風強い!」
「この道なんか臭い!」
と、子どもが次々に見つけます。
そして、
「あれ何?」
「ほんとだね」
「大きいね」
「何作ってるんだろう?」
と会話が始まる。
散歩には、親子が同じものを見るきっかけがたくさんあります。
共同注意と語彙発達の関係については長く研究されていますが、近年の研究でも、親の支援的な関わりを含めた親子の社会的なやり取りが重要であることが示唆されています。
だから、
「語彙力のために散歩しよう!」
と考える必要はありません。
ただ、近所のスーパーまで、
今日は車ではなく、子どもと歩いてみる。
それだけで、家の中にはなかった会話が一つ生まれるかもしれません。
言い間違いは、全部訂正しなくてもいい
例えば子どもが、
「きのう、公園いく!」
と言ったとします。
そこで、
「違うでしょ!昨日だから『行った』でしょ」
と会話を止めなくてもいいと思います。
子「きのう、公園いく!」
親「昨日、公園行ったね。滑り台したね」
と、自然な表現で返す。
これも、先ほど紹介したexpansion(拡張)に近い考え方です。
子どもが伝えようとした内容は受け止めながら、大人がより自然な言葉にして返す。
もちろん、間違いを教えてはいけないわけではありません。
ただ、
「正しく言わせること」より、「伝えたいと思える会話を続けること」
を優先してもいい場面はたくさんあると思います。
年齢によって声かけは変えていい
1〜2歳ごろ
まずは、目の前にあるものと言葉を結びつける。
「ワンワンいたね」
「赤いね」
「冷たいね」
短い言葉で十分です。
子どもが指を差したら、
「ほんとだ!」
と一緒に見る。
そこから始めていいと思います。
2〜3歳ごろ
子どもの言葉に少しだけ情報を足す。
子「車!」
親「赤い車だね」
子「ワンワン走ってる!」
親「ワンちゃん、速く走ってるね」
というイメージです。
3〜6歳ごろ
言葉を増やすだけではなく、
考えや感情を言葉にする会話
も増やしてみます。
「どっちが好き?」
「なんでこっちにしたの?」
「どうなると思う?」
「お父さんはこう思ったけど、○○ちゃんは?」
正解を当てる質問ではなく、
自分の考えを話せる問い
を少しずつ増やしていきます。
語彙を増やそうと、頑張りすぎなくていい
ここまで読むと、
「いっぱい話しかけなきゃ!」
と思うかもしれません。
でも、それで親が疲れてしまったら続きません。
朝から晩まで、
「これはスプーンですね」
「牛乳は白いですね」
「今日は晴れですね」
と実況し続ける必要はありません。
私は、
言葉の数を稼ぐために話しかけなくてもいい
と思っています。
それよりも、
子どもが何かを見つけて、
「あ!」
と指を差した。
その瞬間に一緒に見る。
「ほんとだ!」
と言う。
「大きいね」
と少し言葉を足す。
「お父さんこれ好きだな」
と自分の気持ちも伝える。
子どもが何か言いそうなら、少し待つ。
そんな小さな会話の往復を大切にしたいと思います。
まとめ|語彙を「教える」より、一緒に言葉を使おう
子どもの語彙を伸ばしたい。
そう思ったとき、
単語カードを増やす。
たくさん問題を出す。
難しい言葉を教える。
という方法だけが答えではありません。
子どもが、
「車!」
と言ったら、
「赤い車だね」
と少し広げる。
「ママ、あの車好きだな」
と自分の気持ちも伝える。
「○○ちゃんは?」
と返してみる。
そして、子どもが考えていたら少し待つ。
一つの「車」という言葉から、
赤い。 大きい。 速い。 好き。 かっこいい。 どっち。 どうして。
と、いろいろな言葉に出会えます。
だから私は、
語彙を増やすために「教える」のではなく、親子でたくさん言葉を使う。
そんな感覚を大切にしたいと思っています。
言葉は、覚えるものでもあります。
でもその前に、
誰かに伝えたり、一緒に面白がったりするためのもの。
まずは今日、子どもが何かを見つけたとき、
「それ何?」
と聞く代わりに、
「ほんとだ。○○だね。お母さんこれ好きだな」
と返してみてください。
そこから、思いがけない会話が始まるかもしれません。
参考資料
本記事の作成にあたり、以下の研究・資料を参考にしました。
- Romeo RR, et al. “Beyond the 30-Million-Word Gap: Children’s Conversational Exposure Is Associated With Language-Related Brain Function.” Psychological Science. 2018.
4〜6歳児の家庭での言語環境を調べ、大人と子どもの会話のターン数と、言語能力および言語関連脳領域の活動との関連を検討した研究です。
PubMed掲載ページ - Romeo RR, et al. “Neuroplasticity associated with changes in conversational turn-taking following a family-based intervention.” Developmental Cognitive Neuroscience. 2021.
家庭への介入による親子の会話ターンの変化と、子どもの言語・実行機能や脳構造の変化との関連を検討した研究です。
PubMed掲載ページ - Levickis P, et al. “Maternal behaviors promoting language acquisition in slow-to-talk toddlers: prospective community-based study.” Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics. 2014.
子どもの発話を広げて返す「expansion」など、養育者の応答的な関わりと、その後の言語発達との関連を検討した縦断研究です。
PubMed掲載ページ - Peredo TN, et al. “Teaching Spanish-Speaking Caregivers to Implement EMT en Español: A Small Randomized Trial.” American Journal of Speech-Language Pathology. 2022.
子どもとの会話ターンを合わせることや、発話を広げて返すことなどを養育者に支援した介入と、子どもの語彙との関係を検討した研究です。
PubMed掲載ページ - Flack ZM, Field AP, Horst JS. “The effects of shared storybook reading on word learning: A meta-analysis.” Developmental Psychology. 2018.
38研究・2,455人の子どもを対象とした研究を統合し、共有読書による新しい言葉の学習について検討したメタ分析です。
PubMed掲載ページ - Walsh BA, Rose KK. “Learning words during shared book reading: The role of extratextual talk designed to increase child engagement.” Journal of Experimental Child Psychology. 2016.
3〜4歳児を対象に、共有読書中の大人の応答的な関わりが新しい単語の学習に与える影響を実験的に検討した研究です。
PubMed掲載ページ - Noble C, et al. “The Impact of Interactive Shared Book Reading on Children’s Language Skills: A Randomized Controlled Trial.” Journal of Speech, Language, and Hearing Research. 2020.
対話的な共有読書について検討したランダム化比較試験です。本記事では、共有読書の効果を過度に単純化しないためにも参考にしました。
PubMed掲載ページ - Farrant BM, Zubrick SR. “Early vocabulary development: The importance of joint attention and parent-child book reading.” First Language. 2012.
2,188人の子どもの縦断データから、共同注意・親子での読書と幼児期の語彙発達との関係を検討した研究です。
論文掲載ページ - Wengman J, Forssman L. “Developmental Relationships Between Early Vocabulary Acquisition, Joint Attention and Parental Supportive Behaviors.” Infancy. 2025.
10〜24か月の子どもを追跡し、共同注意、親の支援的な関わり、語彙発達の関係を検討した研究です。共同注意だけで語彙発達を単純に説明できないことも含め、本記事の記述の参考にしました。
PubMed掲載ページ
※本記事では研究結果を参考にしていますが、特定の声かけや散歩、読み聞かせを行えば必ず語彙力が向上するという意味ではありません。子どもの言語発達には個人差があり、複数の要因が関係します。

